インドネシアには数多くの偉人がいます。
そしてその人や偉人の数だけ、サインとタンハバンがあります。皆さんは少し思ったのではないでしょうか?“タンハバンとは?”と。
タンハバン(tambahan)とは、“追加、追記、添え書き”という意味があり、マレー諸族の中でもインドネシア以東の島嶼部にのみ見られる、サインの際に横に沿える一言のことです。日本でいう“座右の銘”であり、漢字圏の“花押”、ヨーロッパの“モットー”に近いものがあります。
それでは、見ていきましょう!
ウィルジャダルナヤ大帝
新マジャパヒトを最盛期に導き、イスラムを大々的に導入したウィルジャダルナヤ大帝は、今もスリ・ウィルジャダルナヤ・スルタンとして敬愛を集めています。
500年以上前の彼のサインが残っている事は驚きです。しかし、公式文書に用いられる、スルタンの公的なサインであるトゥグラは残念ながら残っていません。
これはトゥグラに比べると簡素なデザインで、個人的なサインだと考えられています。
大きく書かれたジャウィ文字の“ウィルジャダルナヤ”の下に、アラビア語でシャハーダ(信仰告白)の一節、“アッラーの他に神は無し(لَا إِلَٰهَ إِلَّا ٱللَّٰهُ)”と書かれています。
イスラム教を導入した彼らしい一節です。
ドゴロニデ
こちらは皆大好きドゴロニデ首相のサイン。
仏教的、日本人的精神で、簡素の中に美しさを見出す実に彼らしいシンプルなサインです。
そんな彼のタンバハンは“色即是空”。これは仏教で最も読まれ、親しまれ、そして短い経典である般若心経の漢字版の一節です。漢字書道の達人である彼によって極限まで無駄を取り除き、デザイン化され、簡素化された漢字は最早芸術品の域です。
色即是空とは、“物の本質は空である”という仏教の根幹の精神を説く、仏教徒にとって最も神聖な四文字だと言われています。ガジャ・マダ大学東洋文学科卒の彼は、中国人よりも漢字を知る男、科挙に受かる男として有名です。
因みに、算術は足し算、引き算、掛け算までが限界らしいです。
アブド・ソイセノ
クセがすごい副首相として有名。彼は6歳で連立方程式を独学で完全に修得する、反対派も不支持者も彼の脳みそだけは褒める天才です。しかし、絵と文字が下手で、その腕前は両親に精神病院に連れていかれるほど。
ガジャ・マダ大学理学部化学科卒で、その後ガジャ・マダ大学大学院理学部化学科に進学し博士号を取得しました。国立首都ジャカルタ理学研究所に研究員として勤めるも、アブド酸という新物質を発見する論文を一つ発表した後にすぐに離職。そしてなんとラッパーになりました。
そのラップでジャワのディープな奴らの舌を負かし、見事デビュー一年でラッパーの全国大会でジャワ島杯を獲得しました。そしてラッパーを辞め、次に政治家になりました。政治家になれば、論戦中に韻を踏み、思ったことをそのまま言うお騒がせ議員です。
何人もの人生を渡り歩く様な半生を送った変わり者の彼のサインも中々に強烈です。
このサインは本人曰く、「字を覚えられなかった小学生の時に、テストの名前欄に書いて皆を困らせた奴。」なのだといいます。これを名前欄に書かれたら誰でも困りますよね。その例のテストも察せます。
そしてタンバハンは何と言葉ではなく“オイラーの等式(eiπ=-1)”!!。恐らく座右の銘が数式なのは古今東西彼だけだろう。本人曰く「美しいから入れた」らしい。
スカルノ
スカルノは言わずと知れたインドネシア独立の父であり、国父です。そしてバンドン会議に代表される反植民地主義と第三世界の先頭にインドネシアを導いた人物でもあります。
面倒だからという理由で、生涯の内にタンバハンを書くことはありませんでした。
そんな彼のタンバハンは“merdeka.i.”。独立を意味するmerdekaにi.というインドネシアの略称を付けています。
彼の祖国の独立に対する執念と、その一生涯を詰めたような一節です。
因みに、スカルノの他にもスラバヤ抵抗戦で有名なブン・トモや、ハッタも同じタンバハンです。
ウェカ
強大な大統領の権限を廃止し、議会の権限を強化したり等、その三十年に渡る長期政権を敷き、絶大な人気を誇ったウェカのサイン。
マレー民族の英雄であるハン・トゥアをタンバハンにしている。
人の数だけサインがあり、その数だけタンバハンがある。それは宗教的なものから、英雄、文学作品、信念、はたまた数式かもしれない。
それは人の一生の代名詞であるのだ。
コンパス・ジャカルタ紙日本語版
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